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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(れ)1780号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人金沢次郎の上告趣意第一点について。

教唆犯の成立には、ただ漠然と特定しない犯罪を惹起せしめるに過ぎないような行為だけでは足りないけれども、いやしくも一定の犯罪を実行する決意を相手方に生ぜしめるものであれば足りるものであって、これを生ぜしめる手段、方法が指示たると指揮たると、命令たると嘱託たると、誘導たると慫慂たるとその他の方法たるとを問うものではない。そして、原判決の判示は、判示農業会が保管していた判示蔵置肥料を配給及び価格統制に違反して売却することを予知しながらこれが処分を慫慂して違反販売することの決意を生ぜしめた旨を判示しているのであるから、特定した犯罪行為の実行を慫慂したものというべく、教唆犯の判示として欠くるところないものといわなければならない。所論の判例は、一定の特定した犯罪行為を為すべきことを教唆することを要する趣旨であって、その手段方法を指示に限るの趣旨でないこと明らかであるから、本件には適切でない。それ故、所論は、刑訴四〇五条三号の上告理由として採用し難い。

同第二点について。

所論は、事実誤認の主張であるから、刑訴四〇五条に当たらないし、また、原判決挙示の証拠を綜合すれば原判示の認定を肯認し得られないこともないから、同四一一条を適用すべきものとは認められない。

同第三点について。

所論は、量刑不当の主張に帰するから、刑訴四〇五条に当たらないし、また、記録を精査し諸般の情状を考慮しても同四一一条二号によって原判決を破棄すべきものとは認められない。

よって、刑訴施行法三条の二、刑訴四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)

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